尖らせた舌先で周りをなぞられ、粒が固く浮き上がると、今度はそれを押し潰される。ルイナードの
唇が触れる度に、レオンの身体が無意識に跳ねた。
「やめ…っ…っふ…ぁ…っんっ」
 噛み締めた唇の端から洩れてしまった甘い吐息に、レオンは顔を紅潮させた。聞いたことのない自
身の声に、羞恥心が増す。くっ、と唇を結んで、顔を横へ背けた。
 だが、執拗に愛撫を繰り返されて、堪え切れない声が唇を割って出てきてしまう。
 胸の粒はレオンの意思を無視して、何度潰されてもピンと起き上がる。ルイナードの口撫に応えるか
のように、より大きく突き出し、色艶を増して。
「も…っぁ…や…め…んぅっ…はぁっ…」
 あられもなく喘いでしまう。
 顔を覗き込んでくるルイナードの片手が、レオンの下肢へ伸びた。
「…っ!」
 ルイナードの意図を察して、レオンは身を捩って阻止しようとした。しかし、全身に回った薬の力がそ
の動きを邪魔する。
 小さく身体を震わせるだけのレオンを眺めて、ルイナードが目を細めた。
「予想以上に効いているようだな。もう縛る意味はない」
 そう言って、両手の拘束が解かれた。
 ルイナードの言葉通り、レオンの両腕は重く垂れ下がり、かろうじて指先だけが動く程度だ。
「…いい加減にしてくれ」
 舌も痺れていて声が震える。双眸を眇めて睨むと、ルイナードの視線が微かに左右に揺れた。
 ふっ、と横へ逸らされ、だがすぐにまた真正面から見下ろされる。
「目は口ほどにものを言う…。いやだ、やめろと言いながら瞳を潤ませていては、言葉が嘘になる」
「なっ…」
 口角を吊り上げて笑うルイナードを、レオンは信じられないといったふうに見上げた。
 瞳が濡れているのなら、それは薬のせいだ。だがそれを口に出しても、今のように言われてしまうと
逆効果なだけだ。
 レオンは唇の裏側を噛んで、更にルイナードを睨みつけた。
「…だからそういう目もな…。分からないお姫様だ」
「何いっ…あっ!」
 口を噤んでいたが、女呼ばわりまでされては黙っていられなかった。抗おうとすると、ふわりと身体が
宙に浮いた。
 ルイナードがレオンをソファから持ち上げて横抱きにしていた。
「美しいお姫様…。漸くあなたを我が手に入れた」
 物語の科白を読むように言われ、レオンはかっ、と顔を赤らめた。
「黙れ…っ、下ろせ…くそっ…」
「口の悪い姫様だ」
 くくっ、と笑ったルイナードが、レオンを抱いて歩き出した。生成り色の木製のドアの前までくると、そ
のドアを足で蹴り開ける。
 殺風景な部屋の真ん中には、セミダブルサイズのベッドが置かれていた。それを目にして、レオンは
身体を強張らせた。
 ルイナードは部屋へ入ると、ベッドの上へレオンを丁寧に横たえさせた。
「…ん…っ」
 冷やりとしたシーツからは、誰の匂いも感じられない。真新しいものだった。
 レオンは不思議に思った。
 それに、部屋にはこのベッドしかない。まるで誰も住んでいないような雰囲気だ。
 これは一体どういうことなんだ…。
 レオンは視線だけで周囲を見回した。
 ベッドの軋み音がして、はっと我に返る。視界に白金の髪が映り込んでくると、大きな身体が伸し掛
かってきた。
 首筋に優しく口づけられる。押し退けたいが適わず、レオンは顔だけを横へ逸らした。
「…っ、やめ…」
「……ずっとこうしたかった。本当ならこういうやり方ではなく…な」
 レオンの言葉を遮るようにして、ルイナードが呟く。ちら、と横目で見ると、ルイナードは自嘲的な笑み
を零していた。
「……ルイ……あんた一体…」
 ルイナードの呟きの意味が分からなくて問い掛けようとすると、ベルトに手を掛けられた。手際よくベ
ルトを抜き取ると、ジッパーを下ろして、ジーンズが一気に膝まで落とされた。
「あっ…ル…っ!」
 胸への愛撫によって、すでにレオンの中心は反応を示していた。黒のボクサーパンツにその証をはっ
きりと浮き上がらせていた。
 ルイナードの眼差しが下腹部へと落とされる。
「ふーん。見掛けによらず淫乱だな」
 そう揶揄して、喉の奥を鳴らして笑う。レオンは目尻を赤くさせて睨みつけた。
「馬鹿だな。言ってるだろ? こういうときにそんな目は、男を昂ぶらせるだけだけだと」
「うるさいっ…下衆め…」
 精一杯の蔑みを込めて罵ると、ルイナードが呆れたように肩を竦めた。
「その生意気な口ぶりがいつまで続くか見ものだな」
 顎を片手で掴まれ、顔を近づけられる。ルイナードの鋭い視線が至近距離に迫り、レオンは喉を上下
させた。
「……く…、なんで…こん…な…」
 レオンの顔を見詰めたまま、ルイナードが下着の上から膨らみを撫でる。途端、レオンの表情が淫猥
に歪んだ。
「や…め……うっ」
 依然、身体の自由は戻ってはいない。何とか動く指先でシーツを掻き、力なく首を左右に振った。
 吐息で笑ったルイナードが、下着に手を掛けた。膝に残ったままになっていたジーンズと一緒に足か
ら抜き去られる。
 解放された性器が、ぶるりと震えて存在を誇示する。半勃ちになっている性器に、ルイナードの熱い
息が吹き掛けられた。
「っぅ…!」
 もう僅かな刺激にも反応してしまう。指先で裏筋を撫で上げられると、一層固くなって頭を擡げた。
「くっ。男に犯されるのがそんなに嬉しいのか」
「なっ、違う…!」
「違う? なら、これは何だ? 先から溢れてきているこのいやらしいものは?」
 ざらついた親指の腹で先端を擦られると、湿った音が静かな部屋に響いた。性器の先端に、自らが
零した蜜を塗り広げられる。
 くちくちとした音が聞こえて、レオンは耳を塞ぎたくなった。しかしそれさえできない。腰がぞくぞくと
甘く痺れてくる。
「いくら拭ってやっても無駄だな。いやらしい奴だ」
「…るさい…これはおまえが薬を……」
「いいや。俺はおまえがこんなになるような薬は使っちゃいない」
「…何言って…。…催淫剤を…」
 見下ろしてくる双眸が静かに細められ、唇の端が上がる。レオンの背中に冷たい汗が流れた。
「…どういう…ことだ…?」
 この感覚は、無理やり薬で引き出されているだけだ。
 悪夢を見ているのも薬のせいだ。
 そう信じて耐えているレオンの耳に、ルイナードの唇が寄せられる。
「快楽を薬のせいにするな。おまえに盛ったのは催淫剤ではなく、ただの麻痺薬だ。だからおまえは、
おまえ自身が感じてこうなっているということを認めるんだな」
 冷淡な口調で、残酷な言葉が囁かれた。

<desparate sex04に続く>

2005,08【初】
2010,05【改稿】

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