昨日の夕方からつけっぱなしだったテレビを消す。
 なんの番組がやっていたかなんてさっぱりわからない。
 ただ、これ以上知らない人間の声が聞きたくなかった。

 いつもよりオレンジ色の室内。
 玄関ドアにはパンプキンのオーナメントがついたリースを飾って、庭の芝生に
もパンプキン型
のバルーンを転がしておいた。
 ランプにも傘立てにも、バケットボックスまでオレンジ色で装飾した。
 冷めたパンプキンパイが手つかずでテーブルの上に乗ったまま。
 カップもソーサーもディッシュも新しいものを買ってきた。

 ソファに座って頬杖をついている俺の恰好まで全部ハロウィン仕様だ。

『31日の夕方には戻るから待っていろ』

 あの眉なしはそう言わなかったか?

 ついさっき月が変わってしまった。

「守れない約束ならするなよ」
 鳴らない携帯を一瞥してそう吐くと、俺はようやくソファから立ち上がった。

「あーいらいらする」
 昨日の昼、あいつの車で買い出しに行った。
 ワインもビールもポップコーンも買っておいた。
 こうなったらひとりでハロウィンアフターでもやってやる。
 俺はマントを翻して、キッチンへ足を向けた。
 なにかに躓いて前のめりになる。
「――っ!」
 つんのめって転びそうになるのをなんとか踏ん張って阻止した。
「なんだよ、っぶねーな」
 ぎろりと床を睨む。
 ニカッと笑っているジャック・オーランタンと目が合う。
 その顔があいつとだぶって見えて、いらっときた。
「おまえはまた来年きな!」
 中指を立てて右足を振り上げた。
 そのとき。
 微かにドアが開くような音が聞こえた気がしたが、蹴り出した右足は止まらなか
った。
 バッカ――ン!
「ぐ、わぁ!」
 オーランタンが何かにぶち当たる衝撃音と低い悲鳴が部屋に響く。
 俺の背筋が凍った。
 恐る恐るドアのほうを見る。
 額にくっきりとオーランタンマークをつけた本物のジャックが立っていた。
「ぶっ!」
 思わず吹き出してしまった俺を、クラウザーが呆然とした顔で眺めてくる。
 何が起こったのか把握できていない、そんな表情だ。
「ごめん。でもおまえが悪いんだぜ」
 謝りながらも額のマークがおかしくて目が離せない。
 ぱちぱちと瞬きをしたクラウザーが額に手を遣る。
 ヤバイ。
 クラウザーが足もとに転がっているオーランタンを見つけるまでに逃げないと。
「あ、俺、パイ温め直してくるな」
 そう適当なことを言って、くるりと踵を返した。
 キッチンに逃げ込む俺の背中にクラウザーの声が掛けられる。

「レオン、ハッピーハロウィン」

 俺はピタリと歩みを止めた。
 今回の任務で何があった?
 どんな怒号よりも恐ろしいクラウザーのセリフに、俺はじわりと眉を顰めた。

-END-

   2011,11up

お仕置き編、またはレオンくんの心配編へ続く…的な終わり方ですけど、
ちがいます。
これで終わりです。

す、すみませ…・。

 

 

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