噎せ返るような草いきれの中、道とは呼べない足場を進む。
 こうしてどれくらいの時間が過ぎただろうか。
 ぎらぎらとした太陽の光はうっそうと茂る高い木々に遮られ、真昼だというのに密林
の中は薄暗い。
「…ふぅ」
 レオンは天を仰いで、額に滲む汗を拭った。
「――大丈夫か?」
 その吐息に反応したのか、10フィート先を行く屈強な男が肩越しに振り返った。
 はっと視線を男へ向け、レオンはフンと鼻を鳴らして顎をしゃくり上げた。
「もう一度、俺に関する資料を読み直すか、クラウザー?」
 軽口を叩いて、肩を窄める。
 すると、男――ジャック・クラウザーは面白そうに眉を上げた。
「これは失礼。さっきから微妙に遅れているのが気になってな」
「はぁ?」
「脚ががくがくしているだろう?」
「言いがかりだ」
 そんなはずはない。
 ムッとして言い返すと、クラウザーが体ごと向き直った。
 これみよがしに眇めた双眸が、レオンの頭から足先までをゆっくり辿っていく。
「…なんだよ?」
 眉を顰めて、あからさまに不快感を表すと、彼が嫌味っぽく唇の片側を引き上げた。
「昨夜が執拗すぎたか」 
「…なっ…!」
 クラウザーの一言に、レオンの全身が一瞬にして燃え上がるように熱くなった。
「あぁ、場所も悪かった。硬い土の上じゃ、腰にも無理がくる」
「……ぅ…なにを…ばかなこ…」
「今夜はもう少しマシなベッドを用意することにしよう」
「…あ……な…」
 生意気な口を利けなくなったレオンをクラウザーは一瞥し、くっと笑って背を返す。
 その大きな背中が、揺らぐ視界から遠ざかっていく。
「………く」
 そのまま暫くびくとも動けずにいたレオンは、かろうじて拳を握り締めた。
「…っ、くそっ!」
 拳を木に打ちつけ、苦々しげに彼の背を睨みつけた。
「今に見てろよ…」
 悪態をつくと、漸く再び足を踏み出す。
 彼を追って。

<END>

2010,01up

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